nana music Tech Blog

株式会社nana music 開発チームのブログです。

新nanaエフェクト設定、どうやって作っているかを公開します。

nana musicでデザインの仕事をしている藤木です。いまはnana公式Twitterでちょっとだけお披露目された、新しい録音やエフェクトの画面作りを担当しています。そんなデザインの本業にくわえ、各種エフェクトの音づくりもお手伝いしています。
今回は後者の音作りについて少し紹介いたします。

本格的なMIXにより近いサウンドを作り出せるように

いままでのnanaはエフェクトを1つしか選べませんでした。たとえば歌声をケロケロさせる『nanaTune』を選んだら、その他の効果をあわせて使えませんでした。

でも。もう少し本格的にボーカルを録音するときは、エフェクトをいくつも使うことが大半です。声を整えるときはまずEQ*1やコンプレッサー*2で下ごしらえし、必要があればさらにケロケロなどの特殊エフェクトをかける——そしてディレイ*3やリバーブ*4によって残響を加える、といった組みあわせて音づくりをします。

Apple Logic Pro画面 音作りをしている様子

Apple Logic Pro上で何種類かのFabfilter製Audio Unitプラグインを使い、サウンドを加工・MIXしている様子

上の画面は僕のパソコンでAppleのLogic Pro*5を使い、ボーカルとステレオ伴奏を加工し、実際にミックスしている様子です。ボーカルトラックにいくつもプロ仕様エフェクトソフト(プラグイン)を使っています。本格的に『歌ってみた』を投稿しているような方がご自分でMIXをしているとき、もしくは“MIX師”さんに依頼されたときには、MIXの作業風景はこんな感じではないでしょうか。

一方でnanaは誰でも手軽に自分の歌声などのサウンドを処理し、投稿できることが大事なポイントですから。もっともっとシンプルにする必要があります。プリセット(あらかじめ用意した既成の設定)をいくつも用意してその中から選んでもらうことをはじめ、いろいろな工夫を考えています。

そうした本格的なアプローチでありながら簡単に使えること。そんな新しいチャレンジに向けたnanaの開発がすでにはじまっています。

EQカーブの設定

いまはEQ部の開発やカーブ設定プリセットづくりなどを進めています。EQとはイコライザー(Equalizer)の略で、低い音や高い音などを増やしたり減らしたりして、音の周波数バランスを調整するエフェクトです。パッと聴いた感じだと少し微妙な変化なので「変わった?」となるかもしれないですが、これを上手く調整すると歌声がはっきり聴きやすくなります。

Logic Graphic-EQ画面

「イコライザー」と聞くと上のようなものを思い浮かべるかもしれません。グラフィックイコライザーといい、Macの『ミュージック』アプリや、家庭用や自動車のオーディオ機器に装備されていることもあり、低音が弱い時に強めるなどの用途で使ったことがある方もいるでしょう。音楽制作の場面ではより詳細な補正カーブを描いて音を加工するタイプのEQを使います。

Fabfilter Pro Q 3によるEQ設定

今回音づくりには、GUIが優れていて自分の思ったとおりのサウンドを作りやすいことからプロ・アマ問わず多くの人たちが導入しているFabfilter Pro-Q 3というプラグインソフト*6をリファレンスにMacのLogic Pro上で使いました。各種コントロールを使い、カーブを描いて音の加工をします。

上のセッティングは男性ボーカルを意識したものです。不要な低音はザックリと削り、中高域と高域の音を少しだけ増して音のヌケが出るようにしました。

もちろん声だけでもいくつも種類がありますから、ある程度一般的に使いやすい設定をいくつか作り、その設定値を音声処理のエンジニアさんに渡します。特にファイルデータを受け渡すのではなく、

ハイパスフィルター(低域を削るフィルター)が何Hzからスタートしてフィルターによる減衰は-12db/oct、ハイシェルフは2kHzでカーブは12db、ゲインは+4db

…というように設定値を並べて伝えます。

nana内部には上図のような音色チェック用のiPhoneアプリを別途開発し用意しています。担当エンジニアに値を伝えることで先ほどプロ用のEQソフトで作ったカーブをスマホの中で再現。テスト用のサウンドを鳴らして、自分の意図したようなサウンド処理がスマホの中でもちゃんと行われているか確かめられます。

基本的にEQは音の下ごしらえ役が基本で、あまりハデな効果を作るケースは多くありません。古い電話やラジオを通したような効果を作るときには例外的にEQが活躍します。下図のようにとても狭い周波数帯だけ音を残して、それ以外は高域も低域もバッサリと削り、声を聞き取りやすくするようにピークを作って音にわざとクセをつけるようなカーブを作ります。するといかにもそれっぽいサウンドになります。

他のエフェクトでもプリセットのための音づくりは続く

今回は開発がすすんでいるEQについて説明しましたが、冒頭に書いたように次の世代のnanaでは複数のエフェクトを同時にかけられるようになります。

ボーカル録音で欠かせない他の下ごしらえ役であり、EQと併用して使用されることの多いコンプレッサーやディエッサーのようなサウンドのダイナミックレンジを調整するエフェクトについても開発が進行中です。

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Fabfilter Pro-C 2というプロ向けコンプレッサーを使用し、nana用のコンプレッサーやディエッサー設定を作成

こちらの方も今回紹介したEQでの音作りプロセスと同じように、プロ向けソフトを使ってサウンドを作り、その設定をnana独自のエフェクトのプリセットに移すという作業を進めています。

それらの新しいエフェクトは開発されたあとOKとなったものがnanaアプリ本体に組み込まれ、歌声や楽器演奏のサウンドを加工する役割を担います。アプリをリリース後にユーザーの方々からどのような反応をいただけるか、今からとても楽しみにしています。

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nana musicでは、音作りを実装してくれるエンジニアや、複雑になりがちな音作りのUIをシンプルにする方法を一緒に考えてくれるデザイナーを募集しています!
社内には趣味のDTMなどで音楽作りをしているメンバーも多いですよ。

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*1:EQ(イコライザー)は特定の周波数を増やしたり減らしたりする処理です。高音や低音を増減させることで、音を聴きとりやすく調整します

*2:音声処理でコンプレッサーは、音量の大小の幅を狭める処理のことです。歌の音量や楽器演奏では音量が常に一定とは限りません。聞きやすい音量範囲に調整することが必要になります。

*3:ディレイは奥行きや臨場感を演出する“残響系”処理の一つです。入力された音を繰り返し再生することでやまびこのような効果を出せます。

*4:リバーブは、音に残響音や反射音を加えて空間的な深みや広がり感を出します。このエフェクトにより部屋で録音したサウンドを大きなステージやホールで奏でた音のようにすることができます。

*5:Logic ProはApple製のDAWというカテゴリーのアプリケーションです。DAWとは音楽制作のための統合ソフトで、打ち込み機能、多重録音機能、MIX機能の3種類を併せ持っています。無料でiOSやMac用に提供されているGarageBandの機能充実版と理解していただいて構いません

*6:プラグインエフェクトとはDAWソフトに組み込んで、DAW付属の標準機能より高品位なサウンドやユニークな機能を拡張するためのソフトです。プロ用のプラグインの中には、DAW本体よりも高価な場合も少なくありません。